もしもあの時
声がする。
言い合いをする声が聞こえる。
いつも聞いてる変わらぬ二人のいがみあいと呼ぶにはあまりにも自然な掛け合い。怒気を孕んでいる雰囲気はなくただじゃれているだけの様なやり取り。
「ありゃ、目を覚まさせちゃったか」
「起こしてしまったようだね」
言い合いをしていた雰囲気は丸でなかったかのように声をかけられる。
いつも慣れ親しんでる居心地の良い二人からの優しい言葉が聞こえる。
覚醒しようとしていた瞼はまたも閉じようとする。抗うことの出来ない強烈な睡魔に身を任せるように深い眠りへ落ちる。
ここはどこだろうか。
深遠にいるようなどこまでも暗く出口もない。
起きなくてはいけない気はするも自分が寝ているのかすら分からない。
起きているならここはあまりにも言い知れぬ感情が渦巻くようでもある。
これは不安恐怖喪失などに例えられるのではないだろうか。
そう感じることなどある訳もないのに、なぜだか持たざるを得ないほど迫られる寂寥感がそう勘違いさせるのか。
更に沈む意識。
自分が自分ではなくなるような、ここがここではなくなるような不思議な感じ。
どれくらい経ったのだろうか。
一秒一分一時間一日一ヶ月一年。時間の感覚など何もなくただ深く暗い場所を彷徨うような、あるいは漂っていただけのようなそんな気分。
波間に揺られる漂流者がもしかしたらこんな感じなのであろうか。
意識が戻ってくる。深く暗く起きたくても起きられない時が終わり意識が浮上してくるように自分を鮮明に思い出していく。
だいぶ眠っていたようだ。
周りから動植物の存在が音を伴って聴覚に届く。鮮やかな色に彩られた景色が視覚に入る。
新鮮である日の光を浴びてこれからの生活を思う。