星纏大征 アストラオー

-- vis novus --

第十六話 加熱




 「右」

 トオジから口からこれ以上ない端的な言葉が飛び出る。

 トオジから発された言葉をトリガーとしたかのように四機浮いているうち射撃タイプのスラッシュ一機がアクティノールの右側を通り抜けながら加速する。

 アクティノールの右側を通り抜けつつ加速する射撃タイプがパウンドバウンドへの攻撃後すぐに機体軌道をパウンドバウンドから逸らすように離脱行動を取る。

 言葉を発してから一連の流れを見ていたトオジはやや眉間に皺を寄せつつなんとも言えない様な顔をしている。

 「今の行動にイメージとの乖離ございましたでしょうか」

 アルマはトオジへ率直な感想を求める。

 あたかも難色を示したとでも伝えているつもりなのか、トオジは微妙な変顔になっていた。これがきっかけで察したのかは不明である

 「今のところは右から抜けていくイメージしたけど、その後にはシールド機を射撃機に追随させる形をイメージしてた」

 「今の認識処理の記録と、今までの認識処理と比較した形も記録致します」

 アルマはトオジの意図を実直に受け止めて処理を進める。

 アルマはトオジからの意図を汲み取り、既に集っているトオジから発される脳波パターンとパルス情報含めて誤差を修正していく。

 このように基本的にはトオジの意図が組まれた脳波感知となっていたかの刷り合わせが行われる。

 行動に一区切りついたことでトオジとアルマの会話が続く。

 内容は先程までを区切りとした戦闘訓練内容についての流れを見返してのすり合わせだった。

 スラッシュとパウンドバウンドを用いた訓練開始してからトオジは訓練内容についてアルマとよく話をするようになっていた。

 それもスラッシュの特性とパウンドバウンドの有用性をトオジがしっかりと認識してからはトオジの方からアルマへイメージの共有と訓練計画を積極的に提案するほどであった。

 訓練にシナリオを用意し、そのシナリオの区切りごとにトオジ自身がどのような意図をスラッシュに持たせることをしたか、それによるスラッシュに期待した行動との乖離があったかなかったかそれらについて念には念を入れるほどに丁寧に行なう。

 「So-Linkシステムのメインはパイロット登録者の脳波から行なうものですが、それだけではありません」

 アルマは言う。

 「パイロット登録者の脳波に合わせ一挙手一投足のパターンまでも記憶し、それによる照合と認識更新も機能として存在しています」

 アルマの説明を詳しく聞くとコックピット全体を通したパイロット状態を把握する機能も用いることによりパイロットの操縦指向の先鋭的な把握も行い、より早くよりダイレクトに機体やスラッシュなどの各パーツへ反応させることを第一としていることが分かった。

 過去、VRなどでも当たり前に用いられていた視線を感知して処理する機能も当然ながら登載されていることは言うに及ばず、コックピットそのものがトオジという搭乗者そのものをデータ化する役目も担っていると、パイロットモーション並みに活用していると。


 「ふと気になったんだけど、このコックピットの全天スクリーンってどうなってんの?」

 アルマとの話し合いから少しして、トオジが唐突にコックピットのスクリーンについて問う。

 「どう、と申されますと?」

 アルマはいきなりの質問に訓練の話題に繋がるのかも知れない質問とでも推測したのか、質問の意図を伺おうとする。

 「深い意味はないんだけど、コックピットの位置より明らかに高い目線だから機体頭部からの映像かとも思ったんだけど、上もそうだし下ましてや真後ろまで写せているのが疑問でさ」

 「そういうことですか」

 トオジから出た質問は意図することもなく何気なくであった。素朴な疑問であったことに納得したのか、訓練の話と絡める回答は不要であることがわかったアルマは仕組みについてのみ答える。

 アルマが答えるには頭部そのものにも専用カメラはあるものの、全天スクリーンそのものを映し出している映像は機体各所から外部情報を取り続けてリアルタイムに表示処理をしている機能だとのことを教えられる。

 「そうすると人型の頭部がある意味なくない?」

 「そんなことはありません」

 「そうなの?」

 「はい、全くの不要とすることもできますがそれなりに機能も載せています」

 アクティノールもそうだが、頭部には先程軽く話題になった専用カメラ以外にも専用の電算機やそれ相応の機能を付したアンテナを備えていたりと何かしらの機能も盛り込んでいるのもあり、一概に削るものではないことも添えられる。

 訂正ではなく認識への補足としての追加情報も伝えられる。

 本来、人であれば目や耳に鼻それに口といった重要器官もあるものの、最大の点は全ての統括を担う脳があること。

 それが機体ともなると脳に該当するのは当然ながらコックピットである。それにより頭部における重要性が人に比べると格段に下がるのは明らか。ましてやコックピットが頭部にあるわけでない機体の場合はなおさらのこと。

 機体によっては頭部に備えたアイカメラから直接映像を取得しているならば、頭部としての重要性を下げさせないことも出来るものの、頭部一つ潰されてカメラが使い物にならないなどといった構造にする必要はなかったのでしていないとのこと。

 先程の機体各所から外部の情報を取っている機能はそうした点を考慮した作りであることの裏づける話であった。

 認識のすり合わせから一転して、座学時間のときのようにアルマの講釈が始まる。

 人型を取ることの最大の利点は、実在の人型インターフェースに合わせた挙動や仕組みを流用しやすいという点である。

 コックピットの脳波読み取りとしてるもののパイロットモニターやパイロットセンサーも完備していることにより、脳波パルスと細かい挙動の紐付けもデータとして蓄積していくことがより円滑なパフォーマンスへと繋がっていること。

 操縦が座位体勢にあってもやはり意識する部位に力が入っていたりとパイロットチェックを通しても相応の情報は取れることを教えられる。

 脳波ダイレクト操縦は操縦簡略化を意図したものの一つの現れであるので、レバー操縦やコントローラー操縦などの多様な操縦方法もまだまだ存在している。これは機体操縦における最適解を模索し続けたことと各団体ごとの機密保持による方向性の不一致によるチャレンジもあいまった影響であろう。

 世の中には2脚以外の機体の方が圧倒的に多いことがその多様さの象徴でもあると座学で出ていたことをトオジは思い出せているだろうか。

 「とすると、人型は有用だけど必須ってわけでもないと」

 「そうですが、マスターのように短期間に操縦技術を習得する対象としては最適解の一つに近いものと」

 「へー、へー、天才パイロットではございませんでした」

 トオジはさもふて腐れたとでも言わんばかりに肩を上げ首を下げるような半ば投げやりなジェスチャーを行なう。

 「人型でない機体も数多存在しますし、機体種別ごとにおける利点も存在します為、一概にどれがダメということもございません」

 アルマはトオジのリアクションをスルーしながら補足し直しす。

 アストラオーやアクティノールのような人型のほうが珍しいことはトオジでもある程度は把握したことで、そこから人型の意味についても考えたのであろう。トオジはちゃんと思い出せた上での結論も出せていた。

 コックピットのスクリーン話からアルマによる機体における講釈まで話は及ぶ。座学時間に含めて知識の塊と一緒であることをトオジ自身が改めて認識したことであろうか。

 なんにせよ、ただの世間話に近い疑問からも少しずつ機体における造詣を深めていく。



 「それで、予定にある俺の社会的立場保護の交渉全くしてないんだけど」

 「そちらは存外に然したる問題もなく進んでおります」

 「え?」

 トオジは呆気に取られる。トオジの与り知らぬところで進んでいるからか、はたまた問題もなく進んでいることにか。