星纏大征 アストラオー

-- vis novus --

〜 プロローグ 〜


ヴィーーーーーーーーーーーーーーーーン

ヴィーーーーーーーーーーーーーーーーン

ヴィーーーーーーーーーーーーーーーーン


 けたたましく鳴り響くのは何か良からぬことが起きてしまったことを知らせる音。緊張感を不安を煽る様に発される音は鳴っている時間が2秒ほどであっても長く感じるのは頭の中の残響感からか。止んではまたすぐに鳴り響くを繰り返す。繰り返し響く警報音とともに、室内は回転灯が赤色明滅することにより、視覚と聴覚への訴えかけが競い合うように続く。


「警報の原因はなんだ?」

 けたたましい警報の中、男性の声が流れる。努めて抑揚がないようにするも、どこか強張らせていることが感じられる。


 発言した男性がいるのは警報が響き、回転灯により赤色明滅するとある室内。室内は大小のモニタ表示や立体映像で映し出されるホログラム表示が乱立している。表示されるモニタ内容を忙しなく確認する複数の人影もあり、まさにオペレーションルーム然としている。問いを発した男性へ返答をする為に、ホログラム表示へ右に左に前にと視線を動す者、モニタ表示内容を切り替え情報を集める者などの幾人から声が聞こえる。


「コードAST001-02が管理座標より消失しています!!」

 オペレータと思しき女性1が映し出される内容の情報をまとめている中、慌てた声で返す。

「消失!? 計器の故障でないなら原因は分かるか?」

「検知範囲外へ探査機を回す準備も急げ」

 まとめ役と思しき男性より矢継ぎ早に問いと対応への指示が発せられる。


「まさか第三者からの強奪もありえるなんてないよな」

「起動された形跡がない為、あるとしても外部からかと」

「コードAST001-02は忽然と姿を消したとしか思えません!」

 警報音が鳴り響く中でも、どこか軽口に感じるオペレータと思しき男性1の発言と女性2による会話が耳に入る。神経を尖らせていたオペレータ女性1は二人の会話への返事か独り言か、思わず悲鳴とも取れる声を荒げてしまう。


 緊迫感に包まれたどこかのオペレーションルームと思しき一室にて、室内の中央に位置取りしたまま状況を把握しようとする1人の男性と、いくつもの情報が表示される大小様々な画面に向き合う複数の人影。確認に確認を重ねるが如く目の前に表示される情報を逐一男性に報告する女性。同じく目の前の表示される内容からまた違う情報から状況を整理している男性や女性の姿が尋常でない状況が起きているであろうことを物語る。


「今は推測は要らん!! 状況をまとめて報告せよ!」

「外部へ連絡する準備も進めておけ」

「「「「はいっ!」」」」

 まとめ役の男性は発散する情報を統べるために一喝する。続けて発せられるのは不測の事態を想定した指示。いきなりの状況に動転して慌てていた者、現実逃避の如く推測を浮かべながら向き合っていた者、緊急事態でも変わらずポーカーフェイスである者とまとまりがなかったオペレータ集団も事に当たる為に冷静さを取り戻す。


「警報は、コードAST001-02が格納庫から消失したこによって発生しました」

 オペレータ女性1は先程までの慌てた様子もなく、計器の故障でないことを2つのモニタを用いて確かめつつ、直ぐ側に映し出された格納庫内映像と、『AST001-02 LOST』と表示される画面を確認したまま原因を伝える。

「格納庫へは1時間以内で、内外ともに物理による干渉は検知されていません」

 答えるオペレータ男性1の前のホログラム映像には、格納庫への外部からの干渉及び、内部から持ち出された形跡もないことを表している。格納庫そのものへ設置されて記録されたであろう計器の計測結果が見て取れる。

「管理記録上による、コードAST001-02へは1時間以内のアクセスも認められていません」

 答えるオペレータ女性2の前には、格納庫への入庫記録とコードAST001-02への電子アクセス記録が表示されているホログラムがそれぞれ映し出されている。


「コードAST001-02が消失した前後の格納庫の記録映像を再生できるか?」

「映像出します」

 まとめ役の男性はほんの少し思案する姿勢を取ったと同時に問う。オペレータ女性3は男性からの問いに答えると同時、既に準備は整っていたとばかりに、間髪入れずまとめ役男性が向いてる空間に格納庫の記録映像の再生を始める。


 大きく映し出され、再生が始まったすぐの映像ではコードAST001-02に何もおかしな点はない。皆、何が起きたのかと食い入るように見ていた矢先、金属でできている筈のコードAST001-02がまるで水面で一滴の雫が落ちたときのように波紋を起こし始める。波打つように大きく揺れたかと思うと、ゴムでできた素材を引っ張ったり縮めたりしてるかの如く、部位関係なく大きくなったり小さくなったりを繰り返す。原型を留めずに形を変えていたかと思うと大きな波紋を一つだけ残し、瞬く間にその存在を消してしまった。その場には元から何もなかったかの様に痕跡を一つとして残さずに。


「ッ!?」

「なん、だと?」

 誰ともなく息をのむ声にならない声と、まとめ役の男性が誰に問うでもなく呟く。室内にはなんとも言えない空気が漂い、沈黙が支配していく。




 -- 場所は代わり、昼下がりのどこともない道端

「寒い?」

「風邪か? 明日病欠とかやだな」

 凱 十字路(カチド トオジロウ)は寒気からか、ブルルッと身を震わせると疑問形で独り言を呟く。誰に聞かせるでもない不意に出る言葉が、よりその場の寂しさを際立たせる自覚はあるのであろうか。



 はたして彼はこの後に起こることへ慮ることもなく、今日も今日とて明日の我が身を憂うのみ。